前身の『Grillかわむら』時代から毎日欠かさずパンを焼いてきました。
ですからもうかれこれ10年以上、毎日パンを焼いてきたことになります。
10年を経てお店の何が一番変わったかと聞かれれば、この自家製パンかもしれません。
作り始めた当初から、お店でお客様にお出しするパンはリーン系、つまりハード系でいこうと決めていました。
それは今でも変わりありません。
リーン系とは油脂の入らない、粉、水、塩、酵母だけの極めて簡素なレシピで焼くパンです。
フランスパン(バゲット)等もこの類になります。
食事のお供にはリーン系が一番いい。今でも僕はそう思っています。
特に僕の作るフレンチは必ずソースがあるので、それをすくって頂くには小麦粉のシンプルは風味と味わいなリーン系が丁度いい。
料理を邪魔しないのです。
当初使っていた小麦粉には風味に満足できず、少量の全粒粉を混ぜ込んで作っていました。
全粒粉を入れる事で小麦本来の風味はプラスされますが、どうしても食感や味わいに重さが出て素朴な雰囲気になります。
これはこれでお客様には好評で、特に上質なオリーブオイルとの相性は格別でした。
それから何年かするうちに、もっと軽いパンが焼きたいと思うようになりました。それは料理との相性を考えた上です。
軽さはあるけれど、小麦に由来する風味と甘み、そして何よりも料理に寄り添うようなパン。
理想は良かったんですが、その理想へのアプローチには大変苦労しました。
この頃、多くのパンの専門家の方々の力をお借りしました。僕が今まで知らなかった知識やテクニック。そして小麦粉。
この粉との出会いは僕のパンの方向性を大きく変えました。
所謂フランスパン用の粉なんですが挽き方が本場フランスと同じ挽き方で、まず風味が素晴らしい。そして小麦本来の甘み。北海道産の小麦を使っているようですがすごく甘みがあります。
粉を変えたらレシピを一から見直して再出発。カット&トライを繰り返し、今でもそれは続いています。
昔から大変お世話になっている方にある時こう言われました。
『オリーブオイルはもう出さない方がいい』
はっとしました。ある意味で漠然と出し続けていたオリーブオイル。勝手に僕のパンにはなくてはならないものだと思い込んでいました。その方はオリーブオイルがパンの邪魔をしていると仰る訳です。色々な考察を経て納得しました。それ以来、オリーブオイルをお出しするのを辞めました。
試行錯誤を経て今ではずいぶんと僕の理想に近づいてきたように思います。
こうして長い時間をかけて、色んな方々の力を借りながら少しづつ成長することが出来た。
そしてこれからも。
そんな自家製パンは僕自身の鏡です。