フレンチにおいて春にはなくてはならない食材があります。
『春のホワイトアスパラガス』
フランスに限らずヨーロッパ各地では、毎年春には必ず食卓を賑わす食材です。
日本の桜前線みたく、ホワイトアスパラガス前線というのがあるくらいです。
日本で、また福岡でフレンチを作るとなれば、当然地元の食材を使って料理にしたい。という気持ちがあります。
しかしどうしても日本では賄えない食材があって、それらは専門の食材輸入業者さんにお願いする事になります。
そんな『春のホワイトアスパラガス』なんですが、実は年明け頃からヨーロッパ各地で市場に出回り始めます。
ただそれらはハウス栽培物で、所謂露地栽培ではありません。
当然味わいにも差があって、一度露地栽培物を味わうとハウス物は使おうという気に僕はなれません。
ですから当店では4月頃から出回る露地栽培物をお出ししています。
特にフランス・ボルドー産の物。
穂先の何とも言えない香りと甘み。下の方の春野菜らしい苦味。
日本にも、九州佐賀や北海道などにもホワイトアスパラガスの生産はありますが、残念ながら僕はボルドー露地栽培のそれを凌駕するものに出会ったことはありません。
その原因の一つとして国産の多くのホワイトアスパラガスは『遮光』で白く仕上げていることです。
実はグリーンアスパラガスとホワイトアスパラガスは元は同じもので、日光に当たるか否かで緑か白が決まります。
当然遮光すれば白くなるのですが、それらは単なる色違いといっても過言ではありません。
僕が扱うボルドーのホワイトアスパラガスは、盛り土と言って人の手で一つ一つ土を被せて日光に当てないようにして白くしています。
当然、多大な労力とコストがかかるのですが、ヨーロッパの人たちはそれを惜しみません。
それはそうしないと、本当のホワイトアスパラガスの美味しさを味わえないことを彼らは知っているからです。
土の中にいる時間が長ければ長いほど、栄養をたっぷり吸い上げてどんどん美味しくなる。僕はそんな風に解釈しています。
知人に美味しいアスパラガスを九州で生産している方がいて、その方に聞いたところによるとヨーロッパのテロワール、つまり気候風土の違いもやはりあるようです。これはワインのブドウ栽培にも同じようなことが言えて、いくら名産地のワイン造りをまねようとしても決してそうはならない、というのに似ています。
そんなホワイトアスパラガスの調理法は昔ながらの茹で上げ、と僕は決めています。
色々と試しましたが茹で上げに勝る加熱方法は今のところ僕は知りません。
それはやはり先人の知恵、ということなのでしょう。